付き合ってもうすぐ一年が経とうとしている。
私たちは、少し前からすれ違いを感じていた。
就職先が決まり、この町を出て行く彼の未来に、私はいないんだろうなと薄々感じていたのだ。

彼のマフラー
彼のマフラー

会う回数も減って行くなかで、少しずつ少しずつ、静かに別れの準備を整えていた。きっと彼からは切り出さないだろうな、と小さくため息をつく。

もうすぐ春だっていうのに、今日の空も私の心もどんよりと曇っていた。
優しくて、いじわるで、私を見ていない彼。
どこが好きだったんだろう、と考えてみるが、いつもその答えにはたどり着けないままだった。

もうはっきりさせないと、と思うと足取りは重たくなる。
何も考えずに、通い慣れた彼のアパートに向かう。

チャイムを押す前に、持ってきた紙袋の中身を確認した。
借りていた小説、前に忘れていった手袋が入っている。
今日はこれを返して、そして、お別れをするのだ。

チャイムを鳴らして、彼が出てくるのを待つ間、無意識に息をとめてしまっていた。
ガチャリ、とドアが開いて、部屋着でボサボサの髪をした彼が扉を抑えたまま、私が部屋にあがるのを待っていた。私は部屋には入らずに、これ返しに来た、と紙袋を渡す。

様子が違う私に、彼も気付いたようだ。
泣かないと決めていたのに、声が震える。

もう、別れたほうがいいかなと思って。今日で。
なんとかそこまで言って、次の言葉が見つからなかった。

彼は黙って私を見ていた。少し頭をかいて
「ごめんな」と言った。

そして帰ろうとする私に
「寒そう」と言い、
そばにあったマフラーを手に取り、無造作に巻いた。

「返さなくていいよ」と。

別れ際に優しくしないで、とは思わなかった。
あぁ、だからこの人が好きだったんだ、と安心したような気持ちになったのだった。

 

ライターこなもん